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大阪高等裁判所 平成6年(ネ)1346号 判決

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

理由

一  控訴人は主文同旨の判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

二  争いのない事実及び証拠上明らかな事実は、原判決一枚目裏末行以下の一の項に示されているとおりである。

なお、原判決本文末尾の次葉に、本判決別紙物件目録(本件不動産)を補充する。

被控訴人は、本件配当金は、破産管財人(控訴人)ではなく、租税債権者である国(被控訴人)に交付されるべきであるとし、控訴人は、破産管財人に交付されるべきであると主張する。それぞれの主張の根拠は、次のとおり付加するほか、原判決三枚目表三行目から六枚目裏二行目に、原告の主張、被告の主張として示されているとおりである。

控訴人は次の主張を補充した。

「破産宣告後に競売裁判所に対して交付要求がされた場合も、国(交付要求庁)への配当金を破産管財人ではなく国に直接交付すべきものとすると、仮に第一順位への配当後なお剰余があり、かつ国以外の後順位担保権者がいないときにも、国(交付要求庁)への配当額は、破産管財人にではなく国に直接交付すべきことになる。しかしながら、この剰余の部分はもともと別除権によつて把握されていたものではなく、このような取扱いを認めると、破産宣告後の新たな滞納処分を認めることになり、これを許さないものとした最一小判昭和四五年七月一六日・民集二四巻七号八七九頁に反する。」

三  当裁判所は、本件配当金を破産管財人(控訴人)に交付するものとした本件配当表は適法なものであると判断する。その理由は、次のとおりである。

破産法四七条二号の規定によれば、国税徴収法により徴収することを得べき請求権(国税債権)は財団債権とされており、破産宣告前の原因に基づく国税債権も、破産宣告後はすべて財団債権となる。破産法七一条一項は、破産財団に属する財産に対し、国税徴収法による滞納処分をした場合においては、破産の宣告はその処分の続行を妨げない旨定めているが、これは、破産宣告前の滞納処分は破産宣告後も続行することができる旨を特に定める趣旨に出たものであり、破産宣告後に新たに滞納処分をすることは許されないことの反面を規定したものにほかならない。そして、破産法、国税徴収法等の関係法令において、財団債権たる国税債権をもつて、破産財団に属する財産に対し、滞納処分をすることができる旨を定めた明文の規定も存しない。それゆえ、破産法四七条二号に定める請求権に当たる国税債権をもつて、破産宣告後新たに滞納処分をすることは許されないのである。

以上は、最一小判昭和四五年七月一六日・民集二四巻七号八七九頁の説示するところであるが、本件においては、本件競売手続中の本件不動産につき被控訴人(所管税務署長)からの滞納処分がされていない間に滞納者の破産宣告があり、その後に、被控訴人(所管税務署長)から国税徴収法八二条一項に基づく交付要求がされている。

このように、破産宣告後に被控訴人(所管税務署長)から交付要求があつた場合に、被控訴人に対して競売代金の一部を直接配当すべきものとすると、国は破産手続とは別に国税債権を徴収することができることになり、破産宣告後に新たな滞納処分を許容したのと同じ結果になつて、破産宣告後には新たな滞納処分は許されないとの前記法理に反する。

そうすると、このような場合、国税債権は、破産法の規定するところにより財団債権として破産財団から弁済されるべきであり、競売価額から配当される国税債権相当額は、破産管財人を通じて弁済を受けるべきものであつて、同額は破産管財人に交付されるべきである。破産財団の総額が国税債権額を下回る場合、破産管財人の報酬などの手続費用が財団債権として国税よりも優先してまかなわれることがあり(最二小判昭和四五年一〇月三〇日・民集二四巻一一号一六六七頁)、その結果、競売価額から直接配当を受ける抵当権の被担保債権は満足を受けながら、国税徴収法八条によつて別除権たる抵当権よりも優先して徴収することのできる国税債権が満足を受けられない場合も生じ得るが、破産宣告後には新たな滞納処分は許されないとされ、かつ、別除権の行使手続で国税債権を優先して行使し得るものとする規定が破産法に置かれていない以上、やむを得ないところといわなければならない。

したがつて、被控訴人は本件競売の配当金の直接交付を受けることはできない。

四  本件配当異議の請求は理由がなく、これと結論を異にする原判決を取り消し、被控訴人の本訴請求を棄却すべきである。訴訟費用の負担につき、民訴法九六条、八九条適用。

(裁判長裁判官 上野 茂 裁判官 塩月秀平)

裁判官 山崎 杲は、転補のため署名捺印することができない。

(裁判長裁判官 上野 茂)

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